2015年11月27日金曜日

トルコが撃墜した理由

 先日、トルコ空軍のF16がロシア空軍のスホイ24を撃墜しました。ロシアの戦闘爆撃機はシリア領内で空爆を行うために飛行していたものと思われます。空爆を実施する前だったのか、後だったのか、あるいは最中なのか報道では伝えられていませんが、トルコ側の主張ではロシア空軍機が領空侵犯をしたそうです。
 そこで5分間に10回の警告を行ったものの、ロシア機が無視したため空対空ミサイルで撃墜したと言います。
 ロシア側は全面的に否定しています。領空侵犯などしておらず、警告も一切なかったと主張しています。
 両国の言い分は大きく違っており、真っ向から対立している感があります。ただ両国とも、深刻な対立に発展させるつもりはないとも言っています。
しかしこの状況では、双方とも非を認めることは絶対にないといえると思います。ロシア側が領空侵犯を認めることも、トルコ側が領空侵犯はなかったと認めることも出来ないと思います。
 そのため、双方が非難するしかないと思います。お互いが決定的な対立には発展させたくないものの、非難しなければならない状況だと思います。それの状況は当分の間、変わらないと思います。状況を変える手立てが、ほぼ皆無に見えるからです。
 この先しばらくの間、ロシアとトルコは出来るだけ対立を激化しないように、抑制しつつ叩きあう関係を続けるしかないと思います。
ロシアとしては、自軍機が撃墜されたのですから、何もしないわけにはいかないと思います。それでは非を認めたと見なされかねないと思います。
 何かしら報復をしなければならないと思います。実際ロシアはトルコに対して経済制裁を行うと発表しました。しかあしそれはロシア経済にとってもマイナスに働くと思います。そのため経済制裁は行うには行うと思いますが、実質的には言葉通りの厳しいものにはならないと思われます。

 トルコにしてみれば、ロシア機を撃墜すれば面倒なことになることは十分に承知していたと思います。
 それでいながら空対空ミサイルを撃ったのですから、ロシア機の領空侵犯があった可能性が高いと思われます。
 ただロシアの戦闘爆撃機は、以前からトルコ領空内や、そのすぐ近くを飛行していたと聞きます。
 またロシアはイスラム国に対する攻撃といいながら、トルクメン人の反体制派にも空爆をしていると見られます。トルコはトルクメン人のシリア反体制派を支援しています。
 シリア反体制派に対する空爆も、領空侵犯や領空ぎりぎりの飛行も、トルコは不快感を示しており、ロシアに対して様々な形で講義や牽制をしていたと思います。
 そもそもロシアとトルコでは、シリア問題に関する方向性に大きな違いがあると思います。
 ロシアはアサド大統領を支援していますが、トルコは退陣を強く求めています。立場の違いは、はじめから大きかったということです。
 そこでロシアがシリア反体派を空爆し、トルコ領空を戦闘爆撃機が飛行していたのですから、トルコがロシアに対して反感を強めるのは想像に難くないと思います。
 
 しかし今までトルコはロシアに対して不快感を強めながらも、ことを荒立てることを避けていたように見えます。
 それが先日、ロシア空軍機を撃墜しました。そうする理由があったのだと思います。
 トルコ空軍のパイロットによる独断だったのかもしれせんがその可能性は低いと思います。やはりトルコの思惑があったと思います。
 それは『ロシアの思惑を砕く』というものだったと感じます。

 ロシアは、イスラム国を壊滅させシリア内戦を停戦するには、アサド政権を存続させるべきだと主張しています。最近は停戦後の政権交代もやむなしという見方をしているようですが、それは次の政権ではロシアの影響力をより強めるという思惑があると思います。
 欧米はアサド政権の退陣を強く求めてきましたが、少し前から欧州では違った意見が発せられ始めているようです。大量に押し寄せる難民に対応できないこともあって、『当面はアサド政権を存続させて、内戦を停戦するべき』という意見です。
 
 そんななかパリで大規模なテロがあり、多くの犠牲者がでました。国際社会が犠牲者を悼み、『ともかくイスラム国を壊滅させるために国際社会は連携するべきだ』という機運が高まっていると思います。
 その機運に『当面はアサド政権を存続させる。他に政権を担える勢力がないことは事実であり、政権の引き受け手がない状況では内戦を終わらせることはできない。またイスラム国を壊滅させることも出来ない』という見方が含まれていると思います。
 それはアサド政権を支援し、存続を訴えるロシアにとっては都合のいいことだと思います。

 ロシアはパリのテロを期に、『イスラム国壊滅』を掲げてフランスなど欧州と協調を進めていたと思います。そして日本を含めた世界では、それを好意的にみる者が少なくないと感じます。
国際社会が、アサド政権の存命を容認してイスラム国を殲滅する方向性が強まりつつあるといえるような気がします。
トルコは容認できないと思います。反アサドの急先鋒であり、アサド大統領の退陣を強く求めているのですから尤もだと思います。
ロシアがフランスと他の応酬国を取り込んで、『アサド政権存続を容認し、イスラム国壊滅を目指す連合体』を形成させることを阻もうとすると思います。

NATO加盟国であるトルコによるロシア軍機の撃墜は、そのためだというように見えます。