2014年4月25日金曜日

私の正体を明かそう


男は「ふっふっふ」と小さく不敵な笑い声を発しながら首筋に手をかけ、皮膚を引きはがすかのようにすると、顔全体がめくれた。それをはぎ取ると、そこに別人の顔があった。

樹脂で精巧に作られた顔を被って変装していたのだ。

 

漫画、アニメ、ドラマ、小説、媒体によらずあらゆる物語で、そのような場面に触れているような気がします。

思い起こしてみると、物心ついたときにはそのような場面を見たり読んだりしていたような気がします。

探偵や怪盗が登場する物語における、定型的展開の一つといえるかもしれません。

 

そして子供のころから、あくまでも物語の中だけのことであって、現実には絶対にないことだと理解していました。

子供でも覆面状の変装顔を被ることで、他人に成りすますことなど出来るはずがないと思っていました。

実際に、現実として他人に変装する技術はなかったと思います。

 

それだけに物語のなかでは、意外な展開にするために、このような変装を使うことがあると思います。ただ現実を度外視しているだけに、都合よく使われることもあるような気がします。

そのため現実性の高い物語には、このような変装はあまり使われないような印象があります。

近年はこのような変装をする場面を目にすることは少ないような気がします。

 

しかし最近目にしたテレビCMで、そのような場面がありました。覆面を剥がすようにして変装を解くのです。

笑いを誘うような内容のCMですので、現実性を求めることなく、昔ながらのわかりやすい表現をしたのかもしれません。

この場面で剥がされる覆面状の顔が、成りすまされる俳優の顔にそっくりというか、本当の人間の顔のように見えます。

コンピューターで画像処理したのかな、などと思っていたのですが、実際に作られたものだと聞きました。

 

それを取り上げているテレビ番組をみたのです。

特殊メイクの技術によって作られた覆面状の顔だそうです。その技術によって作られた他の覆面状の顔は、生きている人間と見紛うほど精巧に作られていて、テレビの画面で見る限り“そっくり”というより“そのもの”という印象を受けます。

そしてそのような精巧な作りは、人間の手技による部分が大きいようです。

「特殊メイク」という言葉を耳にするようになって久しいと感じますが、その技術は日々進歩しているのだろうと思います。

 

 少し前に、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」について書いたことがあります。この作品は時間移動を扱っています。そのため何人かの役者は高校生の役と、その三十年後を演じています。

 年齢を重ねた特殊メイクをしたのですが、スクリーンやブラウン管でみる限り、本当に中年に見えたものです。

 この映画が公開されたのは、もう三十年近くまえのことです。それからも技術は高まり続けていたのだろうと思います。

 

ただ上に書いたように、なんとなく今はコンピューターによる画像処理が全盛で、特殊撮影はあまり使われなくなったという印象を持っていました。

 思い起こしてみると、もうだいぶ前からハリウッド映画に登場する怪物や妖精など想像上の生き物は、コンピューターによる画像処理で描かれているため、着ぐるみや人形などは作られないという話を耳にしたことを思い出しました。

「E・T」や「グレムリン」は、表情など生き物のように動く人形を使って撮影されたといいます。

それが画像処理技術で描かれるようになったため、もうだいぶ前からそのような人形は必要としないのだと聞いたのです。

 

その話が印象に残っていたために、なんとなく特殊メイクもコンピューターにとって代わられていると感じていたような気がします。

 しかし役者が演じる部分については、画像処理よりも特殊メイクはよるところが大きいようです。

 そうなるとちょっとした疑問が湧いてきます。スクリーンやテレビ画面を通さず、肉眼で見ても、本当の人間と見分けがつかないのだろうか、という疑問です。

 

「ミセス・ダウト」という映画では、中年男性が特殊メイクで高齢女性に成りすますという内容の物語でした。二十年ほど前の作品ですが、あの映画を観たとき『間近でみても気づかないものだろうか』と思ったものです。 

もし現実に通用するようなら、とにかくすごいと思いました。『子供ころから物語の中だけだと思っていた変装が現実になるかもしれない』と、なんとなくわくわくしたのです。

 

そしてちょっとした不安や懸念も湧きました。怪盗が誰かに成りすますことが現実におこるとは思いませんが、特殊メイクの技術が犯罪に関わることに使われたり、いかがわしいことや、薄気味悪いことに使われたりすることはないだろうか、という考えが浮かんだのです。

ただ考えてみれば、高度な技術が必要で、特殊な部材が必要なのかもしれませんし、相応にお金もかかるでしょうから、そう簡単に何にでも使えるわけではないのかもしれません。