2014年11月20日木曜日

「そして誰もいなくなった」 アガサ・クリスティー著

 若い頃、アガサ・クリスティー作品を何作も読みました。
 姉が子供のころから読書好きで、中高生のころには海外の本格推理小説を好んで読んでいたようです。
それが家にあったのです。
 しかしその中に「そして誰もいなくなった」はありませんでした。

「そして誰もいなくなった」を“読みたい”と意識したのは、家にあった“翻訳もの”の推理小説を何冊も読んだころだったと思います。
 巻末にある作品紹介に、必ずといっていいほど掲載されていたからです。

 またあのころすでにこの作品は、推理小説の名作だと広く知られていた感があります。
 推理小説を取り上げた読み物などには、常に取り上げられていたように思います。 
ただそれでも、物語や推理の核心に触れることは、今まで知らずに済んできました。
小説や映画は、あらすじを教えられながら結末を知らされないと、“読んでみたい”とか“見てみたい”という気持ちにさせられるものだと思います。

 ところで以前、栗本薫さんの作品について書いたことがありますが、その作中には名作ミステリーについて度々触れられています。
 それらから、栗本さん自身、推理小説を読むことが好きだということが伝わってくる気がします。
具体的な作品名などは思い出しませんが、栗本さんの作品には何度となく「そして誰もいなくなった」について書かれていたような気がします。
 
 そのようなことから、いずれ読んでみようと思っていました。
 しかし今まで読んだことはありませんでした。
 他にも読みたい本がありますし、新しい作品もどんどん世に出ていますので、後回しにしてきたという感じです。

 またあまりにも名作であるため、設定や展開などが、他の創作物に取り入れられたていることも、今までこの作品を読まなかった理由になっていたような気がします。
 映画や小説、マンガなどあらゆる創作物には、過去の作品から発想したり、着想を得たりした作品があると思います。
 そのなかには、物語の背景や状況設定などを、一部に取り入れている作品があると思います。
 また、名作に敬意を示しつつ、それを元にした作品もあります。名作を土台にし、それを模倣するのではなく、別の作品を作り出したと感じるものがあります。
なぜか僕は「そして誰もいなくなった」を読む前に、そういう小説を読んでいるのです。

映画や小説では、名作から発想を得て作られた後の作品を、その名作より先に観たり読んだりすることがあります。
その後で基になった名作に触れると、なんとなく物足りないというか、“あっさりしている”と感じることがあります。
後発の作品は、色々と趣向が凝らされている場合が多いのだと思います。それを先に観たり読んだりすると、やはり原点的な作品が“薄味”に感じるのだと思います。

「そして誰もいなくなった」も、いずれ読もうと思いながら、『今更読んでも楽しめないのではないだろう』かという思いがあった気がします。
 そして『いずれ読もうと思っていた』それ自体、忘れていました。
 それが先日、古本チェーンでこの本を目にして思い出しました。
『そういえば、読もう読もうと思いながら、結局まだ読んでいなかったな』

 そこで購入して、初めてこの本格ミステリーを読んでみました。
 とても楽しめました。若い頃は、“名作”といった印象を持っていましたが、現在抱いているのは“古典的”とか“原点”といったものです。
 それは“過去”を感じていたのだと思います。
 ただ読んでみると、それほど古さを感じませんでした。
 舞台背景や設定などは、あらゆる創作物で用いられているため、目新しさはないのですが、それだけに楽に受け入れられる気がします。
『おなじみの展開なので、安心できる』
 なんとなくそんな感があります。

この本の解説には、パズルストーリーとしては、あまりも現実には起こりそうもない犯罪であり、読者に手がかりを与えてないためアンフェアだと感じられるかもしれないという趣旨のことが書かれています。
僕は本格ミステリーの熱烈な愛好者ではありませんので、推理小説を読む時も、謎を考えたり、自分なりに推理したりする時もあるのですが、“パズルストーリー”という読み方をすることは、あまりありません。
この作品も、謎を考えないわけではありませんが、それよりもサスペンスに浸ろうという意識があった気がします。

 今回読んだ本の奥付を見ると、昭和55年の24刷とあります。
 僕にとっては馴染んでいる年代です。ミステリーや冒険小説など、僕はこのころの“翻訳もの”をよく読みましたし、それらを今でも読みかえすことがあります。
 そのため翻訳の文体から発散する雰囲気に、なじみ深いものを感じているような気がします。
 そのために古さを感じないのだろうと思うのです。
 そのようなことから、あくまでも個人的な感想になるのですが、「そして誰もいなくなった」は推理小説における古典的な名作でありながら、今まで推理小説を読んだことのない若い読者でも楽しめるのではないだろうかと感じました。