2014年7月14日月曜日

走るプラモデル

 子供のころ、スーパーカーのプラモデルが好きでした。
 僕が小学生だった時、空前のスーパーカーブームが巻き起こりました。あのころの子供はみんな、そのブームに乗っていたように思います。僕もその例にもれず、すっかり“はまって”いました。
 新潟遊園でスーパーカーの展示会があったときは、親に頼んで行かせてもらいましたし、スーパーカーの形をした消しゴムや、スーパーカーのカードを集めていました。
また集めるほどではありませんが、ミニカーを何台か持っていました。
 欲しいものを欲しいだけ手にすることは出来ませでしたが、それでもとても楽しんでいた覚えがあります。

 プラモデルもスーパーカーに関する楽しみの一つだったように思います。
 カードを眺めて“かっこいいな”と思うことも楽しいものですが、やはり立体物を手にして走らせているほうが、より空想を掻き立てられ、それを満足させることも出来たと思います。
プラモデルは小学生に手に入れられる、スーパーカーの立体物だったと思います。

 子供のころの僕にとって、スーパーカーのプラモデルは、遊ぶために作っていた感があります。
しかしプラモデルには“作ることを楽しむ”が大きな要素だと思います。
いかに出来栄えを良くするか、技術を高めていくことも楽しいものだと思います。
また完成したときの達成感は心地いいものだと思います。それを飾って眺めていると満足感や充足感が湧いてくるような気がします。

プラモデルには“作ることを楽しむ”要素や、“完成させてから楽しむ”要素などがあり、どのような要素を強めるかが、商品としての方向性を決めるものだと思います。
スーパーカーのプラモデルは“完成してから楽しむ”要素が強いものだったと思います。“おもちゃ性”がつよいプラモデルといえるかもしれません。
僕も、スーパーカーのプラモデルを作るのは、完成したあと遊ぶためだったと思います。作ることは遊ぶための過程であって、それほど楽しいとは感じていなかったと思います。

ただそれにしても、モーターで走らせて遊ぶことは少なかったと思います。
モーターで勝手に走っているプラモデルを眺めていても、あまり楽しくなかったからです。
実際に走らせるのではなく、手で動かして走っている姿を想像して楽しんでいたのです。
「逆ドリフト」や「幻の多角形コーナーリング」などのテクニックを駆使してスーパーカーが競争する場面を、プラモデルを手で動かしながら思い描いていました。
 
そのため、スーパーカーのプラモデルにモーターは必要ないと思っていました。
しかしスーパーカーのプラモデルには必ず、モーターがついていました。
僕は『モーターなんてなくてもいいのに』と思いながらも、『モーターは必ず付いているものなんだ』と受け入れていた覚えがあります。
ただ成長するにつれて『車のプラモデルにはモーターがついていないと売れない。大人が勝手にそう思い込んでいるんだ』と感じていました。

“ロボットのおもちゃに、ロケットパンチがついていること”
“飛行機のおもちゃに大きな車輪がついていること”
それらも『そうしなければ売れないという、大人の勝手な思い込みだ』と思っていました。
“ロケットパンチなんていらないから、ひじ関節が曲がるようにして欲しいよ”
“こんなでっかい車輪は飛行機についてないよ。かっこわるいじゃないか”
 そう思っていました。飛行機のおもちゃは手で持って飛んでいる様子を空想して楽しんでいたので、地面を走らせて遊ぶことなど滅多になかったのです。

 高校生になったころ、スーパーカーではなく、自分が近い将来、乗ることや所有することを見据えた車に興味が湧くようになりました。雑誌などを読みながら、友人と車について話していたものです。
 あのころ、いつくか車のプラモデルを作りました。自分が乗りたいと思っている車の立体物が欲しくなったのです。

 どれも国産車だったのですが、やはりモーターがついていました。
『やっぱり車のプラモデルは、子供向けなんだな』そう思った覚えがあります。
『車のプラモデルには、モーターがついているものだってことが、固定観念になっているんだ』と考えました。
『いつだって大人は、固定観念を捨てることが出来ないんだ』と思ったものです。
 あのころ、スーパーカーブームがとっくに終わっていましたが、車のプラモデルは“おもちゃ性”が強かったと思います。
そのため僕の中に『高校生にもなって車のプラモデルをつくっている』ことを恥じる気持ちがあったと思います。

それから数年がすぎた時、正確な時期は思い出せませんが、成人になったころだったと思います。
ひさしぶりに、24分の1スケールの車のプラモデルを作りました。そのキットにはモーターがついておらず、運転席やエンジンや駆動系が精密に再現されていました。
『やっと大手プラモデルメーカーからも、こういうキットが発売されるようになったんだ』

 そう思った覚えがあります。