2014年8月23日土曜日

危険運転致死傷罪

 悪いことをした人を罰するには、法律が必要だと思います。
“すごく悪いこと”だと思っても、それを罰する法がなければ、裁くことも罰することも出来ないと思います。
ただ、“すごく悪いこと”は感覚的な面があるものだと思います。関わっている人の立場や見方によって、“悪さ”の感じ方が違っていると思います。
 だからこそ、法によって定めておかなければならないと思います。

 それにしても、人間の社会は常に移ろいゆくものだと思います。
 そうなると、法律もそれに合わせて変えていかなければならないと思います。
 法律の中身を変えることもあると思いますし、新しく法律を作ることもあると思います。
 移ろいゆく社会では、多くの人たちが“すごく悪いこと”だと感じても、それが法律に定められていない、そういうことがあり得ると思います。
 そうなると、法律を変えるなり、新たにつくるなりする必要があると思います。
 危険運転致死傷罪は、そのようにして作られた法律だという印象があります。

 すべての法律は、そこに書かれていることに基づいて、裁き、罰するものだと思います。
法律の呼び方が「危険運転致死傷罪」だからといって、“危険な運転だ”と感じることを罰せられるわけではないと思います。
多くの人が“危険極まりない”と感じたとしても、それが危険運転致死傷罪に記されていなければ、その法で罰することはできないと思います。

ただ法律は、予見されるすべての状況に対して、事細かに決められているものではないと思います。
そのため司法による法律の解釈や、どの法を用いるかを判断することが必要なのだと思います。
危険運転致死傷罪については、せっかく法律を作ったものの、使われることが少ないという指摘があったと思います。
自動車運転過失致死傷罪と量刑の開きが大きいため、司法において適用がためらわれる傾向があるのではないかと聞いた覚えがあります。
そこで自動車運転致死処罰法を作って、法律を整理したのだったと思います。

ただ法律を整理しても、危険運転致死傷罪の中身は変わっていないと思います。
車を運転できないほど酔っぱらっていた場合、この法律が適用されるのだと聞きます。
要するに、“べろんべろん”に酔っぱらって、運転することなど到底出来ない状態であるにも関わらず、車を走らせた場合ということのようです。

また、車の挙動を制御できないほどスピードを出していた場合、危険運転致死傷罪が適用されると聞きます。
要するに、まっすぐ走らせようとしているにも関わらず、横向きになったり、回ったりしてしまうほどの猛スピードを出した場合ということのようです。

また、車を運転する技術がない場合、危険運転致死傷罪が適用されるようです。
要するに、まったく車を動かすことが出来ないのにも関わらず、運転した場合ということのようです。

どれもとても危険な行為だと思います。厳しく罰せられるべきだと思います。
ただ現実にそのような違反があるだろうかと考えると、決して多くないと思います。
 
こうして考えてみると、危険運転致死傷罪は、実際に起きている“危険運転”に合っていないと思います。
市民感覚の“危険運転”と合っていないと思います。

思い起こしてみると危険運転致死傷罪は、“危険な運転”に対する罰の重さが、市民感覚からすると軽すぎるために作られた法律だという印象があります。
市民感覚と法律との間に“ずれ”があるため、それをなくそうとしたのだと思うのです。しかし今の危険運転致死傷罪は、『危険な運転とはどういうことか』という点において市民感覚と合っていないと思います。

“べろんべろん”に酔っぱらって運転など出来ないのに、車に乗って事故を起こした人には厳しい罰を与えるべきだと思います。
 しかしそんなことはそれほど多くないと思います。
 市民が厳罰化を求めたのは、もっとよくある悪質な運転や、社会通念上あきらかに危険な運転だと思います。

“一晩中酒を飲んだあと、一睡もしないまま車に乗り、一般国道を時速130kmで走らせながら、スマートフォンを操作しているとき、くわえていた煙草を落としてしまい、それを拾うとして屈み込んだことでハンドル操作を誤ったため車が歩道に飛び込み、そこを歩いていた四歳児と妊娠八か月の女性をはねて、子供と女性と胎児の命を奪った者”

“平日の日中、仕事で車に乗って街中の市道を制限速度で走っているとき、飲んでいた缶コーヒーをうっかり太ももにこぼしてしまい、あわてた拍子にハンドル操作を誤ったため、車が急に路側帯に向かい、自転車の前後に四歳児と二歳児を乗せた女性をはねて、子供二人と女性の命を奪った者”

 これは想像による例えですが、この二人を同じ法律で罰するのは、市民感覚に合わないのではないかと思います。
“前者のほうが厳しく罰せられるべきではないか”と感じる人が多いような気がします。
 危険運転致死傷罪は、そのような声に応えるために作られた法律だったような気がします。
 
しかし、今の危険運転致死傷罪の実態はそうではないと感じます。

司法による法の適用にも問題があるのだろうと思います。しかし今の危険運転致死傷罪には根本的な問題があるような気がします。法律の中身です。