2014年8月1日金曜日

「KGBから来た男」 デイヴィッド・ダフィ著


 冷戦時代、いくつかのスパイ小説を読みました。

ただ“マニア”というほど、スパイ小説に凝っていたわけではありません。目につくスパイ小説のすべてを読破したというのではなく、“名作”と称される作品をいくつか読んだだけです。

僕が小説を読むようになったころ、すでに多くのスパイ小説が世に出ていました。

 

あのころは冷戦の真っ只中でした。振り返ってみると、時代そのものがスパイ小説に適していたと感じます。

スパイ小説に限らず、東西冷戦は様々な小説で描かれていると思います。それ自体を主題にしている作品もあれば、舞台や設定に取り入れている小説も多かったと思います。

 

 東西冷戦は、題材としても、背景や設定としても、小説に描かれやすかったのだと思います。スパイ小説は、その最たる分野の一つだと感じますが、“スパイ小説”というよりは“冒険小説”という雰囲気が強い作品にも、物語の背景には東西冷戦が描かれることが多かったと思います。

 ただ小説は明確に分類出来ない作品も多く、本来分類などするべきではないのかもしれません。

 

それにしても個人的な印象では、書店でスパイ小説だと思しき小説を目にすることは、やはり冷戦時代より少ないような気がします。 

それが先日、「KGBから来た男」という文庫本が目に留まりました。いかにもスパイ小説を思わせる題名です。

 

 今のロシアには「KGB」と呼ばれる組織はありませんので、冷戦時代に書かれたスパイ小説だろうと思いました。それが今書店にならんでいるとなると、再版されたということになります。

 冷戦が終わって随分時間が経っていますので、そのころのスパイ小説が再版されるとなると、なにか理由があるのだろうかと興味がわきました。

 そこで手に取ってみました。

 

 奥付をみると、2013年の発行でした。冷戦時代に書かれた作品ではなかったのです。

 そうなると、それはそれで関心を持ちます。今の時代に、「KGB」という言葉が題名についている小説が書かれたとなると、どんな内容なのだろうと思ったのです。

 解説を見るとアメリカで高い評価を受けた作品で、原題には「KGB」は使われていないようです。物語の内容に触れている部分は、よく読まなかったのですが、元KGBの男が現在のニューヨークで活躍する小説のようです。

 

 そこで本編をめくってみると、作品の雰囲気は“ハードボイルド探偵小説”を思い起こされました。僕は探偵小説も好きで、若いころよく読んでいました。

ハードボイルド探偵小説には、古典的な名作がいくつもあると思います。「KGBから来た男」は、過去の名作探偵小説の雰囲気を、現代のニューヨークに溶け込ませているという印象を受けました。

 とても興味深く、購入することにしました。 

 

 読んでみると、はじめに抱いた印象の通りの作品で、とても楽しめました。

 主人公の探偵はかつてKBGに所属していて、その後ニューヨークに移住し、調査業を営んでいます。ロシアで暮らしていたころの彼自身の過去や、ロシア諜報機関の謀略などが作品に取り入れられていて、それが探偵小説としての厚みを増していると感じます。

 読み終わった後、ひさしぶりに「マルタの鷹」を読みたくなりました。今、買ってある本を読み終えたら、読もう思っています。

 しかしその前に、別の小説が読みたくなるかもしれません。そういうことがよくあるのです。

 

「KGBから来た男」は、忘れている場面があるときは、戻って読み返すようにしていました。

『この人、誰だっけ?』とか『この茶封筒って、いつ受け取ったんだっけ?』などと思ったときは、ページをさかのぼってそれが描かれている文章を探し、『そういえばそうだった』と思い出してから読み進めました。

 そのような読み方をせず、読み進めることもあります。忘れていても、先を読むことで思い出すことも多いからです。

ただこの作品は、以前読んだページに戻って、確認してから読み進めたほうが楽しめるような気がしました。

また読みながら文章に意識が集中していないと気づいたときは、すぐにその行を読み返すようにしていました。

 

それと、少しずつでも毎日読むようにしました。そういう読み方をしないこともあります。時間が取れるときにまとめて読むときがあるのです。そうすると、何日か間が空くときもあります。

 この作品は、登場人物が多く、難しいというわけではないのですが、『込み入っている』と感じる部分もありますので、間をあけずに読んだ方が堪能できると感じました。

 

 それと、“翻訳もの”ということもありますが、近年発行された小説にしては1ページあたりの文字数が多いと感じます。

 前に読んだページに戻ったり、意識を集中するようにして読んだりしたため、毎日読んでいる割には、残りページの減り方が少なかったと感じます。

 本を読むことにおいて、それは楽しいことだと思います。

 この本はじっくり読んだ方が楽しめるような気がします。夏休みのように、時間があるときにはいい小説だという気がします。