2014年8月28日木曜日

処罰感情

[設備会社に勤める男性が、作業用のバンで住宅地の市道を40kmで走行中、ハンドル操作を誤って、路側帯を走行していた自転車と衝突してしまいました。その市道の速度制限は30kmです。
男性は缶ジュースを飲みながら運転していたのですが、車にはドリンクホルダーがついていなかったので片手運転になります。
そこで男性は一気に飲んでしまおうと思いしました。しかし炭酸飲料だったため、むせてしまい、噴き出してしまいました。
あたてた拍子にハンドルを左にきってしまいました。その時、路側帯を妊娠6か月の女性が自転車で通っていました。バンは自転車を幅寄せする形で側方から衝突しました。
女性は転倒しました。たまたまそこに電柱があり、女性は頭部を強く打ちつけました。
女性は病院に搬送されましたが、亡くなりました]

これは架空の事故です。
僕は法律に関する専門知識はありませんので、理解不足だと思いますし、勘違いや思い違いや思いこみがあるかもしれません。
そのうえで、あくまでも個人的に考えてみます。
住宅街を車で通行する時、缶ジュースを飲みながら片手運転することは危険だと思います。
しかしこの場合、危険運転致死罪は適用されないと思います。
おそらく遺族もそれを求めることはないと思います。

[会社を経営する男性が、イタリア製高級スポーツカーで広域農道を時速200kmで走っていた時、脇道から飛び出してきた自転車をはねました。
その自転車に乗っていたのは小学一年生の女子児童でした。小学校に入学して三日目でした。放課後いったん帰宅してから、友達の家にあそびにいく途中でした。
女子児童は即死でした。
会社経営の男性は、起点から広域農道を走っていました。そこの広域農道の周囲は田んぼが広がっていて、全般的に見通しがよく、カーブは総じて緩やかです。
起点から5kmの地点に浄水場があります。その塀沿いに細い舗装道路があり、広域農道と交差しています。信号はありません。細い道路側に一時停止義務があります。事故はそこで起きました。女子児童は一時停止をしなかったとみられています]

 これも架空の事故です。もしこんな事故があったら危険運転致死罪が起用されるか考えてみます。
公道を時速200kmで走ることは極めて危険なことだと思います。
しかし危険運転致死罪を用いるのは難しいような気がします。その法律には、制御できないほどのスピードを出した場合と記されているようです。
イタリア製高級スポーツカーは、そのスピードでも制御出来ないことはないと思われます。事故を起こす前、起点から5kmの間、走行していたことからも、それが窺えます。

おそらく遺族は危険運転致傷罪の適用を求めると思います。
司法担当者の判断によっては、飛び出してきた自転車を避けられなかったのだから、制御出来ていたとは言えないとして、危険運転致死罪で起訴するかもしれません。
しかしその可能性は低いような気がします。

そこでもし、事故の被害者が別の人物だった場合を考えてみます。
『設備会社の男性が起こした事故の被害者が、妊娠6か月の女性ではなく、認知症で徘徊していた高齢者だったら?』
 処罰感情は違ってくると思います。

『会社経営者の男性がイタリア製高級スポーツカーではねた被害者が、小学生ではなく、一人の女性を暴行をして殺害した犯人だったら?』
その犯人に前科前歴はなく、警察は彼にたどり着いていなかったものの、事故当時の所持品から関与が疑われ、DNA鑑定によって、事故死した人物による犯行だと判明した。また余罪はなく、仮に生前、逮捕されたとしても死刑になる可能性は低かった』
”殺人事件の被害者の遺族は、その犯人の命を奪った事故の加害者に対してどのような気持ちを抱くだろう”
 想像することは難しいと思います。
しかし処罰感情は、あまり強くならないような気がします。
 
大衆の処罰感情は、事故の被害者によって違ってくると思います。
 また、民事上の賠償は被害者によって違うものだと思います。
 では、事故の罰は被害者によって変わるべきか考えます。

交通事故には被害者個人特有の事情もあると思います。死角に入ったのは、子供の身長によるとか、認知症のためか車道に座り込んでいたなどです。
 そのような被害者個人の事情が一切関わっていない事故の場合、被害者によって罰の重さが変わるべきだろか、考えてみます。

死角から飛び出してきた男性をはねた事故があったとします。飛び出した男性がボランティア活動中だとしても、コンビニを強盗して逃げている最中だとしても、それをはねた運転手の落ち度には関わりがないと思います。
飛び出した男性が誰であろうと、事故の有様は変わらないということです。

刑事事件は、被害者や遺族の処罰感情を、刑罰に反映させる動きが高まっていると聞きます。
しかし交通事故の場合は、被害者によって罰の重さが変わるべきではないような気がします。
 そう考えると、厳しい罰を課す法律ほど、適用は慎重になるような気がします。

 ただ今の危険運転致死傷罪は、記されている内容にぴったりと当てはまるような事故は、相当に稀なのではないかと思います。
 つまり、確実にこの法律で起訴するという事故は滅多に起きないと感じるのです。
 そうなると、多くの場合司法担当者の判断にゆだねられると思います。
 しかしそうなると、その判断は慎重にならざるを得ないような気がします。
 しかしそうなると、遺族は危険運転致死傷罪での起訴を求めると思います。

 現行の危険運転致死傷罪では、これからもずっとそんなことを繰り返すような気がします。